不動産、財務、戦略的思考の知見をもとに、住まいや資産、人生に関わる複雑な選択肢を、落ち着いて考える支援を行います。

相続不動産で成功する人は、何を見て意思決定しているのか ― 「売るか、残すか」を決める前に、整理しておきたい4つのこと ―

コラム

親から実家や土地を相続したとき、「誰も住まないので、早く売ってしまおう」「固定資産税もかかるので、持っていても仕方がない」と考える方は少なくありません。

確かに、利用する予定のない不動産を持ち続けることにもコストがかかります。

しかし、相続不動産は通常の不動産売却とは少し事情が異なります。

成功する人は、すぐに不動産会社へ査定を依頼して「いくらで売れるか」を考える前に、まず「この不動産について、家族が意思決定できる状態になっているか」を確認しています。

そのために整理したいのが、名義・合意・境界・お金の4つです。

① 名義―「誰の不動産なのか」を明確にする

最初に確認したいのが、不動産の名義です。
相続したからといって、自動的に登記上の名義が相続人へ書き換わるわけではありません。

特に、長期間そのままになっていた不動産では、登記を確認すると祖父母など以前の世代の名義のままだった、ということもあります。

さらに、2024年4月から相続登記が義務化されています。

だからこそ、売却を考える前に、現在の登記名義人は誰なのか。
相続登記は済んでいるのか。
誰がどの持分を取得するのか。
という権利関係を整理する必要があります。

成功する人は、「売れる物件か」を考える前に、「売る権限を誰が持っているのか」を確認しています。

② 合意―不動産の問題を「家族の意思決定」として考える

相続不動産を難しくするのは、不動産そのものだけではありません。
むしろ難しいのは、複数の相続人が関係することです。

一人は、「早く売却して現金にしたい。」
もう一人は、「実家なので残したい。」
別の相続人は、「もっと高く売れるはずだ。」
と考えているかもしれません。

ここで重要なのは、売却価格を決める前に、
売るのか。残すのか。
誰かが取得するのか。賃貸するのか。
いつまでに結論を出すのか。
という家族としての判断軸をそろえることです。

私は、相続不動産は「不動産の問題」であると同時に、「家族の意思決定の問題」だと考えています。

不動産会社を探す前に、家族の方向性を整理する。
この順番が、その後の意思決定を大きく左右します。

③ 境界―「持っている土地」と「売れる土地」は同じとは限らない

土地や戸建ての場合、もう一つ重要なのが境界です。

長年住んでいた実家では、「昔からこの塀が境界だから」「隣の家とは特に問題になったことがないから」と考えてしまいがちです。

しかし、売却する段階になると、登記上の面積と実測面積が違う。
境界標が見つからない。
塀が境界を越えている。
隣地との認識が一致していない。
といった問題が見つかることがあります。

例えば、売却を進めてから相続人の一人や隣地所有者との間で境界について認識の違いが判明すれば、測量や調整が必要となり、予定していた売却スケジュールが大きく変わることもあります。

成功する人は、「問題が起きてから境界を確認する」のではなく、「問題になる可能性がないかを先に確認する」という順番で動いています。

④ お金―「いくらで売れるか」だけを見ない

そして、FPの視点から特に重要だと考えているのが「お金」の整理です。
相続不動産には、さまざまな数字が登場します。

相続税評価額。
固定資産税評価額。
不動産会社の査定価格。
実際の市場価格。
これらは、同じ不動産についての数字であっても、意味が異なります。

さらに、売却を考えるのであれば、
固定資産税。
管理費。
火災保険料。
草刈りや清掃費。
建物の維持修繕費。
解体費。
測量費。
売却時の仲介手数料。
譲渡所得に対する税金。
なども考える必要があります。

つまり、「いくらで売れるか」ではなく、「売った後にいくら残るか」「持ち続けたらいくらかかるか」まで比較して初めて、売却・保有の合理的な判断ができます。

相続不動産の4つの整理

▪️成功する人は、「価格」ではなく「選択肢」を比較する

相続不動産について、「売却査定が3,000万円でした。」という数字が分かっても、それだけでは意思決定できません。

例えば、3,000万円で今売却する。一定期間保有してから売却する。賃貸して収益化する。相続人の一人が取得する。建物を解体して土地として活用する。という複数の選択肢が考えられるからです。

それぞれについて、手元に残るお金。将来の維持費。手間。リスク。家族の希望。税務上の影響。を比較すると、「高く売れるか」だけでは見えなかった答えが見えてくることがあります。

成功する人は、不動産の価格を比較しているのではなく、選択肢の価値を比較しているのです。

▪️買う側にも、「売主側の整理」は重要

これは相続不動産を購入する側にとっても重要です。

気に入った中古戸建や土地が見つかっても、相続登記に時間がかかっている。
共有者間の調整が終わっていない。
境界について確認が必要になった。
といった事情があれば、想定どおりに取引が進まない可能性があります。

ただし、買主が相続人の人数や遺産分割の詳細まで踏み込んで確認する必要があるわけではありません。
重要なのは、仲介会社を通じて、「売主側が契約・引渡しできる状態にあるのか」を確認することです。

相続不動産だから危険なのではありません。
必要な整理が終わっているかどうかが重要なのです。

▪️まとめ

相続不動産で成功する人は、「早く売った方がいい」「高く売れるまで待った方がいい」という結論から考え始めません。

最初に確認しているのは、「この不動産について、適切に意思決定できる状態になっているか」ということです。
そのために整理するのが、名義・合意・境界・お金。

誰が権利を持っているのか。
家族は何を望んでいるのか。
土地の状態は明確なのか。
売る場合と持つ場合で、お金はどう変わるのか。

この4つを整理したうえで、「売る・残す・貸す・活用する」という選択肢を比較する。

住まいも、資産も、事業も。
成功する人は、目の前の問題にすぐ答えを出すのではなく、正しく意思決定できる状態をつくってから選択しています。

相続不動産でも、その順番こそが、家族の資産と関係を守ることにつながるのではないでしょうか。

プロフィール

宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定)
楢崎 隆也

住まい・資産・事業に関する「意思決定」をテーマに情報発信。宅地建物取引士とファイナンシャルプランナーの専門性を活かし、住宅購入や事業用不動産の活用、資産形成、相続・事業承継、経営戦略までを一体で捉え、一人ひとりの価値観やライフプラン、経営課題に寄り添った意思決定を支援している。

主な執筆テーマ
住宅購入/賃貸住宅/不動産/事業用不動産/資産形成/ライフプラン/相続/事業承継/経営戦略